最近、このバランスドアーマチャータイプのイヤホンがオーディオアクセサリー市場に登場してきています。このタイプと言うと今まで主に、補聴器、通信機等にスピーカーユニットとして、更にその昔は黒電話のハンドセットのスピーカー(若い方は知らないかも)にこの構造が使用されていましたが、ここに来て注目され出してきた理由として、公共の場(例、電車の中での使用)で、隣の人が、イヤホン、ヘッドホーンを付けているとシャカシャカうるさいと言う経験をされた方は多いと思いますが、この様な公共マナーに対応すべく、このタイプが一躍注目され出してきました。またこのタイプはそれ以外にも意外と優れものです。 今回は、このバランスドアーマチャータイプの構造をご説明いたします。
如何して、シャカシャカしなくて済むの?
振動板はHiスチフネス(軟らかくない(剛性のある))振動板を使用する構造に在ります。
従来のダイナミックタイプの構造イヤホン、ヘッドホーンを耳に付けると外部にシャカシャカ音が、聞こえると言う理由は二つ在ります。
1. | イヤホン、ヘッドホーンの音響インピーダンスを低下させる目的で構造的にスピーカー背面から音漏れをさせる構造を持っている。 |
2. | 同じく音響インピーダンスを低下させる目的で構造的に、耳に装着したその部分から音が漏れる構造を持っている。 |
この二つの理由は、振動板がHiコンプライアンス(剛性の低い(軟らかい))のダイナミック型タイプのドライバーユニットが高音質を求める時、必ず構造的に取らざるを得ない為です。 ※ダイナミック型(動電変換器)は別の機会にご案内します。
では、何故Hiコンプライアンスの振動板は、その二つの理由を持たなくては成らないかと申しますと、自転車の空気入れみたいな構造を示し、イヤホンを装着した時、外耳道から音漏れが無い状態を耳の構造部に当てはめて説明すると、
振動板が鼓膜より軟らかい(Hiコンプライアンス)条件で、青矢印方向に運動した時、ある程度外耳道の空気を圧縮した後、その圧縮した圧力にHiコンプライアンスの振動板が負けてしまいます。更に矢印方向に押すと、振動板が変形するに至るのは、経験的にご理解していただけると思います。
また、その逆の運動(赤矢印)は、筐体で密閉しているので、鼓膜の剛性の比ではなく、振動板は圧縮した筐体内部の空気圧力に負けてしまいます。この様な状態を音響の分野では、過渡特性が悪いと表現します。
Hiコンプライアンスのダイナミック型イヤホン及び、ヘッドホーンは密閉した構造を持つと、持ち前の素晴らしい能力を発揮出来ない事に在ります。
バランスドアーマチャータイプ(電磁変換機)は、密閉された使用状態において、振動板自身が運動する事により発生する振動板前面、背面の圧縮圧力に負けない剛性を振動板に持っている事に在り、ダイナミックタイプでは再現できない音質を提供出来る事にもなります。
バランスドアーマチャータイプの代表的な構造
構造1(2磁極型):
空芯コイル中央をアーマチャー(可動鉄片)が貫通しており、電気信号に対しアーマチャーが磁気誘導されます。
また、アーマチャーはその端部に閉磁気回路に貫通している為、磁気誘導されたアーマチャーがその閉磁気回路中で電気信号に対し上下運動が発生します。
上下の磁石は均等の力でアーマチャーを矢印方向に吸引する力が働いています。
その均等の力を取る為、バランスされたという事からバランスドアーマチャーと言われて
いるようです。
磁気回路のヨークは、等角図に示したようにロの字型をした閉磁気回路を持っています。
構造2(1磁極型):
振動板の正スチフネス(赤矢印)、磁石の負スチフネス(青矢印)が理想的な位置で均衡するようにバランスを取る事により、変換効率を飛躍的に上げます。
磁気回路は、アーマチャーを介し閉磁気回路を構成します。コイルは、ポールピースの外周に位置させ、電気信号をポールピースに磁気誘導します。それにより均衡しているアーマチャーが運動すると言う構造です。
ダイナミックタイプ、バランスドアーマチャータイプ(2磁極型、1磁極型)の長所と短所
| ダイナミックタイプ | HiFiバランスドアーマチャータイプ |
2磁極型 | 1磁極型 |
小型化 | ×φ10そろそろ限界 | ◎10mm角以下が主流 | ×φ10そろそろ限界 |
構造 | ○簡単 | ×複雑 | ○簡単 |
コスト | ◎中国製造が主流 | ×非常に高価 | △2磁極型の約1/2 |
音響系の 設計性 | ○振動板前面、 背面の音響設計可 | ×振動板前面、 背面の音響設計不可 | ○振動板前面、 背面の音響設計可 |
変換効率 | ×悪い | △特性操作のせいか、 あまり良くない | ◎非常に良い |
消費電流 | ×悪い | △特性操作のせいか、 あまり良くない | ◎ダイナミック型16Ωの1/4程度 |
コンセプト
音響変換器の設計は、機械系のみだけではなく音響系も含め特性等の追求が可能なように1磁極型のバランスドアーマチャータイプを採用しております。
将来性
バランスドアーマチャータイプは、組立精度が非常に高い構造を持つ関係上、高変換効率と言う利点を有します。 この高変換効率とは、消費電流が少ないと言う事になり、バッテリー消費が問題となるパーソナルユース商品に対しては特に将来性が在ると考えます。また、最近良く使用されるエコと言う点では、省エネの昨今、時流に沿った流れを持ちます。
参考
このバランスドアーマチャータイプは、電磁型変換器(Electromagnetic Transducer)に分類されます。 弊社の製品を分類に分けると以下の様になります。
電磁変換器 | ME2型 | | |
| MEN型 | | |
| ME146型 | | |
| ME101型 | | バランスドアーマチャータイプ(1磁極型) |
| N20型 | (量産段取り中) | バランスドアーマチャータイプ(1磁極型) |
| 咽喉マイク | | バランスドアーマチャータイプ(1磁極型) |
※N20型:高性能HiFi用小型バランスドアーマチャーME202型を使用しております。
下図周波数特性は、ME202型(赤色特性)とほぼ同サイズのダイナミック型(黒色特性)を同条件で比較した周波数特性です。
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